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『ええっと たぶん かなったな』え・ぶん カワカミサエコ
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エンは なきたいとき、
からだの まんなかあたりに こっそりあめをふらせます。
そうすると めからなみだが でないので、
まえは 「なきむしエン」とよばれていたけれど、
いまではすっかり ただの「エン」です。
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「なきむしエン」だったころは、
なみだでせかいが にじんでみえて ころんでばかり。
あぶなくて おさんぽさえも みんなにやめろととめられて、
おうちでひとり ないてばかりのまいにちでしたが、
ただの「エン」になってからは、
こっそりあめをふらせながら なんでもできて
みんなとたのしく くらせています。
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そんなあるひ、
「だいじょうぶ?」と こえをかけられました。
さいきん ひっこしてきた おむかいさんです。
エンは ドキッとしました。
とっさに「ええっと、なんのこと?」などといって とおりすぎましたが、
おむかいさんなので まいにちかおを あわせてしまうのでした。
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「きみ、だいじょうぶ?」
「ねえねえ、だいじょうぶ?」
「おーい! ほんとうに だいじょうぶなのかい?!」
こまったことに そうきかれればきかれるほど、
エンはどんどん なきたくなるのでした。
そして とうとうこらえきれなくなって、
めから なみだがこぼれてしまったのです。
エンはおどろき いちもくさんに にげだしました。
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むらのはずれの はらっぱのおくの
せのたかい くさむらのなかに かくれて、
めからながれるだけの なみだをながしました。
そして さいごのなみだをぬぐいながら
エンが「はぁ、かえりたくないな…」と つぶやくと、
こんどは ほかのだれかがなきだしました。
「ぼくは、かえりたいよ…」
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いもむしのモムでした。
モムは なきながらいいました。
「とりにつかまり いのちからがら にげだしたのはいいが、
おっこちたのが ここさ。このあしで やまは あるけないだろう?
なかまと ロモチであうやくそくなのに、はたせないんだよ…。」
ロモチが やまのうえのほうにある ということは
うわさに きいたことがあります。
ほんとうにかなしそうな モムをみて、
エンも なきたくなってしまいました。
「ええっと… わたしなら、あるけるかもしれない。
わたしが いっしょにいくよ。」
エンも きょうはかえりたくなかったので、
ちょうどよい ようじだとおもったのです。
モムはとてもよろこびました。
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やまにはいると ふかいもり。
ながいくねくねみちが、ずっとおくのほうまで つづいていました。
ちかみちをしようとすれば イライラクサの しげみのトゲトゲが
チクチクささっていたいので エンはなきたくなりましたが、
モムのはなしをきいていると なんとかきがまぎれます。
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「ロモチはね、みちのりが けわしかったり なんてことなかったりとか、
ねがいが かなったり かなわなかったりする ふしぎなばしょなんだって。
めじるしは、タブンノキ とよばれる おおきな き で、くちぐせがね…」
さいごまで はなしおわらないうちに モムはだまってしまいました。
さなぎになったのです。
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さなぎになったモムは つきあかりがすけて
ほうせきみたいに きれいでした。
エンは あるきながらなんどもながめ、タブンノキのくちぐせは
やっぱり “たぶん” かな?とかかんがえて きをまぎらせました。
「おお。それは“たぶん”、ロモチョウのさなぎだよ。
「あ!あなたは、タブンノキさん?」
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「ああ、そうだよ。たぶんね。」
エンは すこしわらってしまいました。
じぶんのなまえなのに、たぶん だなんていうひとに あったことがなかったからです。
そんなエンをみて き もにっこりしました。
「わたしのことは、みんな すきかってによぶ。
いまは タブンノキ とよばれている 。おそらくね。
わたしは きがついたらここにいた。
いままで たくさんのことを ひとからきいてきたが、なにしろ ここからうごけない。
じぶんで たしかめたことがないから たぶん なのだよ。」
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「ええっと、ここがロモチという ばしょなのですか?」
「それもよくきかれるのだが、
たぶんここは ロモチというばしょではない。
かんがえるに ねがいをかなえるのは、ここ、ロモチ。
コ、コ、ロ、モ、チ、しだい。ということなのだろう。おそらく。」
エンはしばらくかんがえましたが、
よくわからなくて なきたくなりました。
「そんなときはたぶん、ふりかえらず、ただおもうがままに
まっすぐすすんでみればいい。おそらくそれでいい。」
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そのとき「おはよう」とこえがしました。
みてみると はねがすこしぬれてくしゃくしゃした チョウがいます。
「モムさん?!だいじょうぶ?!」と エンがきくと、
「うん だいじょうぶ、すぐかわく!」と げんきにこたえました。
すっかりきれいなチョウになったモムは、ぎこちなくとびたちました。
「やくそくのばしょは このおくだよ。ありがとう!いくね!」
エンはおいかけました。
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もりをぬけると モムとそっくりなチョウが たくさんいて、
いっせいに とびたとうとしていました。
「そういえば、キミのねがいはなに?いってみなよ!」モムのこえです。
「わたし…わたしは、、つよくなりたい!」エンのこえがひびきわたりました。
でもどういうわけか、さけびながら なきたくなってしまいました。
「あーあ。かなわなかったな」
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チョウたちがとびたつと あたりがよくみえて
なんぼんかのみちが あらわれました。
タブンノキ がいったとおりに まっすぐすすんでみると、
のぼってきたみちよりも すこしあるきやすく
ちがったけしきが みえました。
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いえにつくとほっとして、エンは さっそく なきたくなりました。
すると、やっぱり おむかいさんがやってきました。
「だいじょうぶ?」
「ええっと… だいじょうぶ、すぐかわく!たぶん…ふふふ。」
エンは ロモチのことをおもいだして すこしわらってしまいました。
すると それにつられて おむかいさんも くすくすとわらいました。
あいかわらず、エンのまんなかのあたりは あめふりなままでした。
おしまい